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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)9353号 判決

〔主文〕1 被告らは、各自、原告日本M同盟に対し、金四六万一、二〇五円、原告T、同Hに対しそれぞれ金一七万円、原告Mに対し金八万円、原告Iに対し金七万円、原告N、同Kに対しそれぞれ金四万円およびこれらに対する昭和四二年一二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2 被告らは、原告日本M同盟に対し、同原告発行の「民主青年新聞」「青年運動」に別紙四記載の内容の謝罪広告を同別紙記載の条件で各一回掲載し、原告T、同Hに対し、前記「青年運動」に別紙二記載内容の謝罪広告を同別紙記載の条件で一回、原告Mに対し、前記「民主青年新聞」に別紙三記載内容の謝罪広告を同別紙記載の条件で一回掲載せよ。

3 原告らのその余の請求は、いずれも棄却する。

4 訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

5 この判決は、第一項に限り仮りに執行することができる。

〔事実〕《省略》

〔理由〕第一本案前の申立について

まず、原告M同盟が、権利能力のない社団として当事者能力を有するかどうかについて、検討するに、証人Iの証言と本件記録編綴の「青年同盟のよびかけ・規約」と題する冊子の記載によれば、原告M同盟は、独立、民主、平和、中立の日本をつくり、青年の生活と社会的地位の向上のために種々な青年の要求を実現しつつ、自主的、大衆的な青年組織となることを目的に掲げ(規約前文にこのような記載のあることは、後述のとおり当事者間に争いがない。)、その組織系統として、経営、農山漁村、学校、居住地における三人以上の同盟員から成る「班」とその上部機構である複数の班から成る地区組織、その上部機構としての同一都道府県内における複数の地区組織からなる都道府県組織、その上部機構としての全国大会と中央委員会の各組織から成るものであつて(規約第八条)、この各級の組織には、それぞれの最高機関として班総会、地区大会、都道府県大会および全国大会が設けられ、その閉会期間中は、大会で選ばれた班長または班委員会、地区委員会、都道府県委員会、中央委員会がその最高機関となる旨定められ(規約第九条第一項)、全国大会が原告M同盟の最高機関とされ(規約第一一条)、中央委員は、全国大会で選出され、これによつて構成される中央委員会が常任委員会と中央委員会委員長とを選出し、中央委員会委員長が原告M同盟の代表者と定められている(規約第一四条)。そして、各級大会は、原則として、各級委員会が招集し、各級大会は、各級委員会委員と各級の同盟員数に比例して選出された代議員および審議権のみを有する各級委員会の指名に基づく評議員で構成され、決議権は代議員だけがこれを有すること、各級委員会と各級大会とは、それぞれ委員の過半数の出席で成立し、採択される各決定は、各級大会においては出席代議員の過半数の賛成で、各級委員会においては出席委員の過半数の賛成で有効となることが定められ(規約第九条第二項から六項まで)、財政に関しては、原告M同盟の資金は、同盟費、同盟の事業、正常な寄附金からの収入によるものとし、同盟費は月額金一五〇円、この内金二〇円を中央、内金六〇円を都道府県、内金五〇円を地区、内金二〇円を班に各配分される旨規定され(規約第二九条)ている組織であることが認められる。

このように、原告M同盟は、その組織、総会の運営、代表の方法、財政に関する定めが規約によつて明定されているのであつて、いわゆる権利能力なき社団というに妨げはない。したがつて、原告M同盟は、民事訴訟法第四六条の規定によつて、訴訟の当事者能力を有することは明らかである。

第二本案について<中略>

被告らは、手記、論文は、文芸、学術若しくは美術の範囲に属する独創性を有する精神的作品にはあたらないから、著作権法によつて保護される著作物とはいえない旨主張する。

著作権法によつて保護される著作物とは、文芸、学術、美術もしくは音楽の範囲に属する思想、感情の創作すなわち精神的知的創作と解され、これを言い換えれば、法律によつて保護の対象から除外されたもの(著作権法第一〇条第二項、第一三条、旧著作権法(昭和四五年法律第四八号による改正前の著作権法、以下同じ)第一一条)以外の、真善美その他、人間社会における価値に関して表現されたすべての思想、感情の創作をいうのであつて、このような思想、感情の創作である限り、それは、文芸、学術、美術もしくは音楽のいずれかの範囲に属せしめて解することができ、この範囲は、その分類形態を示すものということができる。そして、「創作」とは「模倣」でないことを意味するものと解すべきである。ところで、本件二七篇の手記、論文はいずれも単なる事実の列記ではなく、原告M同盟に属する同盟員の労働者としての立場からする経験またはその利害関係あるいは生活要求に根ざした意識に基づく真善・幸福追及に関して表現された思想、感情を内容とするものであることが認められ、これらが、模倣であるとする資料のない本件では、いずれも文芸、学術の範囲に属する思想、感情の創作といわなければならない。被告らの、著作物ではないとする主張は、採用きできない。

被告らは、また、本件手記、論文は、いずれも、新聞紙または雑誌に掲載した雑報または時事を報道する記事にあたるから、著作権の目的にはならない旨主張する。

本件に適用のある著作権法第一〇条第二項にいわゆる「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法附則第二条第一項、第一七条。なお、旧著作権法第一一条第二号においては「新聞紙又ハ雑誌ニ掲載シタル雑報及時事ヲ報道スル記事」)とは、単なる日々の社会事象そのままの報道記事をいうものと解すべきであるところ、前記のとおり、本件手記、論文は、作者が労働者としての立場から自己の経験またはその利害関係あるいは生活要求に根ざした意識に立脚して人間社会における価値に関して表現された思想、感情を内容とするものであるから、単なる日々の社会事象そのままの報道記事にあたらないことが明らかである。被告らの主張は採用できない。

そこで、<証拠>を総合すると、原告M同盟から依頼され、あるいは投稿された本件各手記、論文は、いずれも同盟員である原作者が、中央委員会新聞編集委員会、同雑誌編集委員会において定めた規約により、各著作物に関する著作財産権を中央委員会ひいて原告M同盟に帰属させることを承知のうえで、これらを著作して、その原稿を原告M同盟に交付しているものであることが認められ、この認定を左右する証拠はない。そうだとすると、本件各手記、論文については、いずれも著作者から原告M同盟に原稿が引き渡された時に、該各著作物に関する著作財産権は、原告M同盟に移転し帰属したものといわなければならない。

なお、ここで、本件の一五篇の手記が、無名または変名の著作物にあたるかどうかについて検討する。

無名著作物とは、著作物のいずれの場所にも著作者の実名、変名を問わず、社会通念上一切の著作者名を表示していない著作物をいい、変名著作物とは、著作者の実名またはこれと同視すべき名称以外のものが、実名に代えて用いられた著作物をいうものと解するのが相当であるところ、A―3の著作物には、「東京荒木代議員」と表示され、「東京」の文字は「荒木代議員」の文字より小さく表示されていることが認められるから、東京選出の代議員である荒木なる者の著作物であるというべく、実名の著作物とするのが相当であり、A―4の著作物は「東京Y電機」、と民生青年新聞中の見出し部分に表示されているが、これらは、いずれも民主青年新聞の記者が取材したものであつて、前記各表示は、記者の取材対象を特定する意味を有するに過ぎず、取材記者の実名、変名の表示がないから、これらは、いずれも無名の著作物というべく、<中略>C―2には、民主青年新聞中の見出し部分に「東京F居住班」と表示されているが、これは通信員または同盟員の投稿で、その著作物の内容は、東京F居住班の「班長Sさんに話してもらいました」と記述して、同人の話の内容を主体として構成されていることが認められるから、この作品の著作者は、東京F居住班の班長のSなる者と見るのが相当であつて、変名著作物といつてよい。ほかに以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

三次に、被告Mが発行者となり、被告会社を発行所とし、被告らは共同して、昭和四二年一二月一日、単行本「民青の告白(副題「職場の中から三〇人の手記」)」第一刷を発行し、同書中文章二七篇を掲載したことは、当事者間に争いがない。

被告らは、「民青の告白」は、「編者解説」が主体であつて、前記文章を収録したのは、正当な範囲内の節録引用であるから著作権侵害にはならない旨主張する。「民青の告白」には、本件二七篇の手記、論文が、そつくりそのまま、または一部削除あるいは一部削除とともに一部加入されて、他の八篇とともに、「第一、大経営のなかの民青」と題して一二篇、「第二、中小企業のなかの民青」と題して四篇、「第三、経営侵入の拠点・居住班」と題して七篇収録され、各篇の直後に「編者解説」と題して説明文が施され、次いで「第四、内部ではどんな教育が行なわれているか」と題し、この題の次に「編者解説」として説明文が施され、続いて七篇の手記、論文を掲記し、「第五、日共や民青幹部は民青をどうみているか」と題し、五篇が収録されて各篇の後に「編者解説」として説明文が掲げられ、次いで「第六、新らしい行動指針について(文献と指令」として九種の資料が登載されていることが明らかであつて、この本の構成態様からすると、本件二七篇の手記、論文をも含めて手記、論文、文献、指令を編集したものであることは明らかである。ところで、著作権法附則第一七条により本件に適用のある旧著作権法(昭和四五年法律第四八号による改正前の著作権法をいう。)第三〇条第一項第二号にいわゆる「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」とは、自己の著作物中において従たる構成資料として、社会通念ないし公正な慣行上これを引用することが必要であると認められ、かつ、その必要とする範囲内で、公表された他人の著作物を自己の著作物の一部として利用することをいうものと解すべきであるから、前記「民青の告白」の構成態様からすれば、本件「民青の告白」に登載した二七篇の手記、論文は、「民青の告白」の従たる資料とはいい難く、むしろ、その主要な構成資料であることは、その副題である「職場の中から三〇人の手記」が示すとおりであつて、とうてい正当な範囲の節録引用とはいいえない。ほかに、これを別異に解すべき資料はない。

被告は、「民青の告白」では、引用した著作物の出所を明示しているとして、あたかも正当な引用にあたるかのように主張するが、出所の明示は、正当な引用の場合でも当然要請される事柄であつて、出所を明示したからといつて、不正当な引用が正当化されるものではないから、とうてい採用できない。

そうだとすると、被告らは、「民青の告白」の発行により、原告M同盟の各著作財産権を侵害したものといわなければならず、この侵害行為につき、少くとも過失があつたものというべきことは、出版界の当時の状況に照らし容易に推認できるところである。したがつて、被告らは、この侵害行為によつて原告M同盟の被つた損害を共同して賠償すべき義務がある。

よつて、進んで原告M同盟の被つた損害について検討するに、<証拠>によれば、被告らの「民青の告白」の発行部数は、少くとも五、〇〇部で、その販売価格が一部金三八〇円であることが認められるが、この部数以上原告主張の部数まで発行されたことは、これを認めるに足りる証拠がない。そして、「民青の告白」には合計三五の手記、論文が収録されているほか、九篇の「文献と指令」が収録されていることは、前認定のとおりであるけれども、この文献と指令なるものは、弁論の全趣旨に徴し、関係者において一般に周知されることを期待こそすれ、かかる収録に特に異議があるものとは認められないから、著作財産権が問題とされるのは、結局三五の手記、論文についてであるとするのが相当である。原告M同盟は、これら本件二七篇の手配、論文を他に出版の許諾をするとすれば、許諾による著作権の使用料、すなわち、印税相当額の金銭を得ることができるわけであるから、被告らの偽作行為により、この相当額の損害を被つたものということがでができる。そして、原告M同盟が従来民主青年新聞等に掲載した手記、論文、その他の作品を編集して出版して来たことは、明らかであり、弁論の全趣旨によれば、原告M同盟は、他にその出版を許諾するとすれば、販売価格の一〇パーセントの印税率を期待しているものであり、この率は、出版界の当時の状況から容易にこれを肯認しえられるところであるから、本件二七篇の著作物を利用した「民青の告白」一冊あたりの印税相当額は、前記販売価格の一〇パーセントである金三八円に三五分の二七を乗じて得られる金二九円三一銭、その五、五〇〇部についての印税相当額は合計金一六万一、二〇五円となることが計算上明らかであつて、これが、原告M同盟の被告らの共同同不法行為によつて被つた損害であるというべきものである。

四次に、原告Tほか五名の著作者人格権が侵害されたかどうかについて検討するに、「民青の告白」に利用収録された原告T、H、M、I、N、Kの著作物に対する偽作の内容は、削除加入があるから、同原告らの各原題名、本文の同一性については、これが害され、同原告らの有する著作物に関する同一性(完全性)保持権を侵害されたことが明らかである。そして、この侵害によつて、同原告らが精神上苦痛を被つたことは容易に推認しえられるから、被告らは、これを慰謝するに相当な原告T、Hに対しては各金一〇万円、原告M、Iに対しては各金五万円、原告N、Kに対しては各金二万円を共同して支払うべき義務があるものとするほか、被告らに対し、原告T、同Hのために相当の内容の謝罪広告を、<中略>それぞれ一回同別紙掲記の条件で掲載させるのが相当と認められる。

五そこで、次に、原告らに対する名誉毀損の成否について審究する。

(一) <証拠>を総合すると、原告Tの著作物では、同原告が訴外S電機に入社して経験した、労働条件の改善、会社側の労務管理と労使関係のあり方に矛盾を感じて悩みながら、同原告に与えられた配置転換命令が、裁判所によつて不当なものとして取り消され、仲間の応援を通じて、M同盟員として再度の配置転換にも負けずに、労働者として活動を続けている様子を描き出しているものと認められるのに対し、「民青の告白」では、同原告の配置転換が裁判所で不当なものとして認められるまでの重要な経過を削除し、「編者解説」において、同原告が、「日本共産党(以下「日共」という。)の青年行動隊組織―民青同盟に加入し、仲間を誘つて会社への反抗闘争に明け暮れる」と摘示している。以上の事実からすれば、原告M同盟は、なんらかの陰謀団体であつて、原告Tがその同盟員であることと相俟つて、同原告が、会社側の配置転換命令について裁判所における正当な救済手段を講じたことをかくし、単に、職場の秩序を乱す目的で反抗闘争を続けているような印象を世人に与えるおそれが十分であつて、前記認定の侵害の態様からすれば少なくとも被告らに過失があつたものというべく、これによつて、原告Tの人格はそこなわれたものということができ、これを慰謝するには、被告らをして金五万円を支払うべきものとするほか、原告M同盟発行の雑誌「青年運動」に、別紙二記載のうち、この項に関係ある部分相当の内容の謝罪広告を同別紙掲記の条件で、前記四の項の謝罪広告とあわせて一回掲載させるのが相当と認められる。<中略>

六終りに、弁護士費用相当額の損害の主張について検討するに、原告らは、いずれも、被告らが本件侵害行為による損害賠償債務等を任意に履行しないため本訴に及んだものであり、原告ら本人がみずからこの種訴訟を追行することは訴訟技術的に相当の困難を伴うことは明らかであり、弁護士による本件訴訟の追行を余儀なくされたことは、本件訴訟の進行経過から容易に肯認できるところであつて、<<書証>によれば、原告らと原告代理人らとの間に、本件訴訟追行の報酬として、原告M同盟は金一〇万円、その余の原告らは、それぞれ金二万円を事件解決の時に支払う旨約したことが認められる。そして、この事実と本件訴訟の難易さその他一切の事情を考慮すれば、結局、原告らの原告代理人らに支払うべき報酬額は、原告M同盟が金一〇万円、原告T、H、M、I、N、Kがそれぞれ金二万円とするのが相当と認められる。これらの金員は、被告らにおいて前記不法行為による損害として、原告らにそれぞれ連帯して支払うべき義務あるものである。

七よつて、原告らに対する損害賠償請求は、原告M同盟が、合計金四六万一、二〇五円、原告T、Hが、それぞれ合計金一七万円、<中略>およびこれらの金員に対する不法行為の日である昭和四二年一二月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分に限り理由があるから、これらを認容し、その余の部分は理由がないからいずれも棄却し、原告らの謝罪広告請求は、原告M同盟、同T、同H、同Mの請求につき前記認定の限度で理由があるからこれらを認容し、同原告らのその余の部分は理由ががないから棄却し、原告I、N、Kの各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項但書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 高林克巳 野澤明)

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